先月更新分で、各方面より絶賛された第1シーズン「青雲編」が終了し、 ![]() 東京郊外のとあるファミリーレストラン。約束の時間ぴったりにその男は入店し、私が待つ席へとやって来た。格好は噂通りのランニングにブリーフ、そして額には「D」とロゴの入ったサンバイザーをかけている。 男の名は土毛智樹――大童貞を名乗る彼のその目は、恋の駆け引きに疲れ果てた浮世の男女には絶対に出すことのできない、哀しみを帯びた輝きを放っていた。 土毛を突き動かすものとは何なのか? そして大童貞とは一体何なのか? 湧き起こる筆者の興味をよそに、土毛の語り口は予想外にも非常に柔和で爽やかなものであった。
――今日はお忙しい中、ありがとうございます。土毛「いえいえ、全然大丈夫ですよ。そんなことより、どんなこと聞かれるかものすごい緊張が(笑)」 ――単刀直入に聞きますけども、土毛さんの現在の職業は何になるのですか? 土毛「無職です(即答)。ただこれは一般的な職業概念に合わせた場合の話であって、僕自身は職業はこれ、プライベートではこれ、といったような立てわけということをあまりしたくないんですね。ですから僕の肩書きは「大童貞」の一つですましてしまいたいという気持ちがあるんです。」 ――その「大童貞」というものをもう少し詳しく知りたいのですが、いわゆる普通の童貞と大童貞とはどのような違いがあるのでしょうか? 土毛「うーん…童貞としての誇り?(笑)」 ――その違いとは。
土毛「これはまだ僕自身はっきりとした答えが出ていないんです。ですが、大童貞たる僕から見て、周りの童貞というのはやはりどこか自信がない。もちろん僕だって自信満々というわけじゃないですよ? でも何ていうか、童貞であることを恥じてしまってるんじゃないかと…あっ!そうです!結局童貞でいたくないというのが多くの童貞の希望であって、大童貞とはそこが違うんじゃないかと」――大童貞はあくまで童貞であることを自らのアイデンティティとしている、ということ? 土毛「アイデンティティというか、老舗ですよね。味を守り続ける、みたいな」 ――秘伝のタレだけは何があっても教えられないって?(笑) 土毛「そうそう(笑)のってきましたね(笑)ただまあ、今老舗っていうのは思いつきで言ったんですけど、あながち間違ってないですよ。つまり、大童貞として一生を終えたとして、じゃあその精神はそこでおしまいなのかっていうとそうじゃなくて。江戸時代にドゲレツ斎さまという偉大な大童貞がおりまして、ドゲレツ斎さまはおそらく世界で初めての自覚的な大童貞だったんじゃないかと僕は考えているわけです。で、ドゲレツ斎さまは大童貞として後世のために様々な発明をしてきたわけです。そしてその発明や自らの考え、詩などを本としてまとめあげた。それが『ドゲレツ大百科』です。これがあるからこそ大童貞の生き方というものが継承されていくのかなと思ってます」
――ということは、ドゲレツ斎が初代の大童貞で、その系譜に連なるのが土毛さんであると。土毛「もちろん大童貞自体は昔からいたんでしょうけど、いかんせん史料がないから引継ぎようがないんです。ですから僕はドゲレツ斎さまを初代の大童貞として、それ以降の『ドゲレツ大百科』を手にしてきた人々を歴代の大童貞として考えているのです。そして僕は第12代の大童貞ということになります」 はっきり言って、土毛の淀みない語りに私は少なからず面食らった。時には軽口をたたきながら話をする土毛を前に、「これのどこが大童貞なのだろう?」という疑問がたえずインタビュー中に頭を離れなかった。 そこで私は一旦インタビューを中断し、知り合いの女性ライターと連絡をとり、続きのインタビューを彼女にやってもらうことにした。(私は別の席からその様子を密かに観察するという手法をとった)土毛の真実の姿を知るために… そして、女性ライターが姿を現した途端、土毛は先ほどまでの落ち着きを完全に失い、表情からはみるみる余裕が奪われていったのである。 (インタビュアーが変わり、土毛の席に座る)
――突然すみません、さっきの彼がどうしてもいなくてはならない仕事が入ってきてしまったので、ここからは私がインタビューの続きを担当させていただきます。土毛「はい(消え入るような声で)」 ――先ほどまでの内容は私も把握しましたので、質問の続きなのですが、土毛さんは第12代の大童貞ということですよね? 土毛「まあ…12代…そうでした…(突如として目が泳ぎ始める)」 ――それで、『ドゲレツ大百科』がどのように受け継がれてきたのかという部分が気になるのですが。 土毛「ちゅー(メロンソーダを飲み干す)」 ――儀式のようなものがあったわけですか? 土毛「……」
――土毛さん?土毛「ど、童貞の…く、くべふぉ!!(嘔吐)」 ――ど、どうしたんですか!? 土毛「いえ、何でも…どぅぶぇえあ!!」 土毛の体調の突然の異変により、インタビューは中止せざるをえなくなった。正直なところ、土毛がこれほどまでに女性とのコミュニケーションに難があるとは、私の読みの甘さを反省するほかない。 私はもはやこれ以上の取材は不可能だと諦めかけた…が、トイレから帰ってきた土毛の横には2人の少年が随伴していたのだった。そして、土毛は5分前に嘔吐したことなどさもなかったかのような力強い笑みを湛えていたのである。
土毛「錦織!東山!この女に大童貞の素晴しさをあますとこなく教えてやれ!」――あの、彼らは…? 錦織「すいません…土毛さんにファミレスに来るように言われたんですけど何か失礼なことはしませんでしたか?」 土毛「この2人こそ大童貞・土毛智樹の選んだ大童貞候補生なのである!」 ――そうなんですか? 東山「違います。僕らはただ単に土毛さんと偶然出会って、それからしつこく会いに来られてるだけです。言うなればただの年上です」 土毛「東山!おまえのAVへの執念は大童貞を目指す上で必ず有利になると言っているだろう!?」 錦織「土毛さん…僕たちは土毛さんと違って女性に興味があるんですよ!この場が何なのかよくわかんないですけど巻き込まないでください!」 ――女性に興味があるの? 錦織「あがッ!(白目をむく)」 東山「ぬごッ!(AVのパッケージを激しく開閉する)」 土毛「ぱりん(メガネのレンズが割れる)」
――ちょっと、大丈夫ですか?植草「大丈夫ですかじゃないでしょう!」 ――あなたは…? 植草「私の名は植草! 土毛さんの弟子であり真の大童貞候補生だ! 少し遅れて来てみればこんな無惨なことになって…少しは童貞に配慮してくれてもいいでしょう!?」 ――私はただインタビューを… 植草「女性が童貞にインタビューをしたら事故が起こるに決まっているじゃないですか! 興味本位で我々童貞に近づかないでいただきたい!」 ――それはすみませんでした。でも植草くんはなぜこんなにも平然と私と会話できるのでしょうか? 植草「たった今シコってきたからですよ。童貞と女性がまともに会話ができる唯一の時間というのがシコったあとなんです。だけどそれもあと数秒で終わってしまう…」 ――え? 植草「すいません土毛さん…オレ、もう限界みたいです…」 土毛「植草!もう一度シコるんだ!オレはメガネが割れて正確にエロ本を見ることができない…!」 東山「くそ…!ファミレスの各テーブルにDVDプレイヤーが常備されてさえいれば…!」 植草「もうやめましょう…こんな無益な戦いを続けていったいどうなるんですか!?」 ――えっと、あの… 植草「大人たちが勝手に始めたことに何で僕らが巻き込まれなきゃならないんだ!!」 土毛「よく言った植草!オレたちは大童貞としてどんな逆風にも耐えていこうじゃないか!そして…」 ヤンキー「うっせーんだよおめーら!!」 土毛「ふぃい!」 私たちはこの時点でそうっと店をあとにした。 結局大童貞の核心には迫ることができなかったのは残念ではあるが、彼らの日常の様子を垣間見ることができたのは収穫であったと思っている。今後また機会があれば、必ずや土毛の真実の姿を明らかにし、大童貞の全てを解き明かしていこうという決意である。(了) |